「くらやみ祭り、行ってみようか」
と、夫に言われる度、
「行ったことあるよね?」
と答えていました。するとその度に
「行ったことないよ?」
と言われ、
「私はなにかとくらやみ祭を混同しているのだな」
と思ってはいました。
くらやみ祭は府中、大國魂神社で行われる例大祭で、5 月 3 日〜 6 日の期間中、多くの人で賑わうそうです。
「賑わうそうです」と言うか、賑わってました。
今年、初めて伺ってみて私は自分の勘違いを理解しました。
あ、くらやみ祭ってあれか、『燃えよ剣』の冒頭か!
この夕、歳三は、村を出るとまっすぐ甲州街道に入り、武蔵府中への二里半の道をいそいでいた。
(中略)
まったく、この男はなにをしでかすかわからなかった。
いまも、街道を歩いているなり(※傍線部、原典は傍点)はただのゆかたがけだが、その下にはこっそり柔術の稽古着をきている。
宿場のはずれに出たころ、野良がえりの知りあいから、
「トシ、どこへ行くんだよう」
と声をかけられたが、だまっていた。
まさか(中略)とはいえないだろう。
今夜は、府中の六社明神の祭礼であった。俗に、くらやみ祭といわれる。
あ〜〜〜
ひさしぶりに思い出した〜〜〜
読んで三十年だか四十年だか経ってる〜〜〜
くらやみ祭は行ったことがあるんじゃなくて、読んだことがあるだけでした。
今回私たちが初めて祭に行ったのは真っ昼間。まだ神輿が静かに準備中の 5 月 3 日のことです。
こんなにずらりと屋台が並ぶのを見るのも久しぶりというかもしかしたら初めてではないかというほどの賑わいです。
お化け屋敷もありました。
本殿前は行列が出来ていたので、私たちはお参りを早々に断念。遠くから拍手して列から離脱、境内をぐるりとお散歩することにしました。
本殿東側の住吉神社、大鷲神社社殿前の狛犬さんはなんともご機嫌な感じでかわいらしい。
お隣は家康を祀る東照宮。大河ドラマ『どうする家康』、盛り上がっているそうですね。
そこから本殿北側をめぐると、
高く伸びた木々の間をぬって届く風がきもちよくて、この風を浴びただけでももう十分だなという気持ちになりました。
辰巳に鎮座する巽神社の狛犬さんは阿像と吽像とで大分表情が違うのですが、もともとこうだったのでしょうか。
そのお隣、本殿西の松尾神社はお酒の神様。日頃お酒はよく頂いておりますから、さすがにお参りするかって気持ちになりました。
街路樹はきつめの剪定をされるか、ひどい場合は伐られてしまうことも多い昨今、こうした(神域のような)場所でないと、都市部では木が自然の樹形をある程度残しつつ、剪定もされて陽を浴びつつ、のびのびと大きくなっていくところがなかなか見られません。
そんなわけでとにかく、街中で大きな木の下に立てたことがうれしかったです。
府中は基本的に開発もぐいぐい行っているようで、駅前はぴかぴかなのですが、そのぴかぴかの建物の間に古い建物もあって、歩き甲斐があります。
京王線府中駅を降りて大國魂神社前、府中市役所前と都道 229 号をさんさん歩いて行くと、下河原緑道に出ます。
向かって左側が車道、右側が自転車と歩行者専用の道になっていて、これが下河原緑道です。国鉄下河原線廃線跡です。下河原線は国分寺駅から東京競馬場前駅までの旅客船と、分岐して下河原駅までをつないでいた貨物線からなり、戦争で色々ありつつ、約 70 年の間人や貨物を運び、1976 年に廃止になったそうです。「散歩の達人」で 2021 年に取り上げていたのですね。
歩いていたときはそのことを知らず、「どうしてこの道は段々になっているのだろう」「自転車・歩行者専用道路がこのように広々しているなんて、まじ、府中、大都会!!」などと素朴に感動していました。
都道を駅側にもどりますと、府中高札場跡に出ます。
ここは「甲州街道、川越街道、相州街道が交差する府中宿の中心」(「東京都指定旧跡 府中高札場」掲示より)で、人がたくさん集まるので高札場として利用されたそうです。その旧跡を伝えるだけでなく、くらやみ祭で神輿が集まる「御旅所(おたびしょ)」として今も大事に使用されています。
と、このようなことを高札場のお向かいにあるワインのお店で聞きました。
このお店では例年くらやみ祭のときは閉めていたのですが、今年は開けてみるのだそうです。開けて、もう手に負えなくなったら、閉めるのだそうです。なにせその時期には 70 万人とも 100 万人とも言われる大勢の人びとがこの府中を訪れるので、開けてはみるが対応不能かもしれないとのことです。
カウンターでは常連さんが「携帯、月に 18000 円かかってるんだけど」と気になる発言をしておられました。お店の方はちょっと驚いた様子で「それ、見直せますよ……」と提案しているのに当の常連さんはあまりその気がないのか、次の話題へ。どきどきしました。うっかりしているとそのように高額になる可能性をもつ携帯電話の料金体系を私は不快に思います。
帰る前にコーヒーでも飲もうかと気軽にGoogleさんに尋ねたら、不思議な所を通らされ、
素適な喫茶店にたどりつきました。
店内にはジャズが流れ、竹林からの光も優しく、これは近所にあったらしょっちゅう通ってしまうかもという雰囲気でした。
たまたま、お店に責任者の方がおられず、アルバイトの方ばかりのところにお客さんが立て込んでしまい場内大騒ぎでしたが、めずらしいこともあるものです。
そして木々からの風に吹かれながら、
謎の建物を見ながら、
街中の単線を楽しんで帰ってきました。
🚃 おしまい 🍸