覚えていらっしゃいますか。今年 6 月、「なんか寒い」とか言っていたことを。
「寒い」は言い過ぎかな? と思いつつ、大根をことこと煮ていた日のことを。それが今や、何でしょうか。一日中遮光カーテンを閉め、日差しに怯える日々です。
この一週間ほどは、日陰でじっとしていることが多いです。そしてもはや見飽きた「節電」の二文字。こちとら、2011 年の夏から節電してるっていうのに、その間ずっと「再生可能エネルギー発電促進賦課金」払っているのに……! と、かっかしつつ血圧を測ったら低かったので、血圧にとっては「暑い」はそれほど悪くないということのようです(私は寒いと血圧が高めになります。薬を飲むほどではないのですが)。
2022 年上半期、読んだ本はこんな感じでした(数字は読んだ順)。
- 山本文緒『シュガーレスラブ』
- ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』土屋政雄訳
- 北村紗衣『お砂糖とスパイスと爆発的な何か 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』
- 北村紗衣『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち 近世の観劇と読書』
- アガサ・クリスティー『火曜クラブ』中村妙子訳
- ホン・サンス『ヘイトをとめるレッスン』たなともこ・相沙希子訳
- 萩原朔太郎『猫町』市川曜子挿画
- 岸本尚毅『文豪と俳句』
- リチャード・オスマン『木曜殺人クラブ』羽田詩津子訳
- 津村記久子『現代生活独習ノート』
- 西村賢太『夜更けの川に落葉は流れて』
- 若竹七海『みんなのふこう 葉崎は今夜も眠れない』
- 大沼保昭・江川紹子『「歴史認識」とは何か 対立の構造を超えて』
- 松田青子『英子の森』
- 深町秋生『アウトクラッシュ 組織犯罪対策課 八神瑛子Ⅱ』
- 堀辰雄『燃ゆる頰・聖家族』
- 和泉悠『悪い言語哲学入門』
- アガサ・クリスティー『ホロー荘の殺人』中村能三訳
- 田中克彦『ことばは国家を超える 日本語、ウラル・アルタイ語、ツラン主義』
- アガサ・クリスティー『エッジウェア卿の死』福島正実訳
- エマ・バーン『悪態の科学 あなたはなぜ口にしてしまうのか』黒木章人訳
- マリヤ・アリョーヒナ『RIOT DAYS プッシー・ライオットの革命 自由のための闘い』
- M・W・クレイヴン『ストーンサークルの殺人』東野さやか訳
- 小林賢治『最新 差別語不快語』辛淑玉企画
- 『江戸川乱歩全短編1 本格推理1』日下三蔵編
- 深町秋生『アウトサイダー』
- 桑野隆、大石雅彦編『ロシア・アヴァンギャルド 6 フォルマリズム 詩的言語』
- 西田太一郎『新訂 漢文法要説』
- 大熊肇『文字の骨組み 字体/甲骨文から常用漢字まで』
- 深町秋生『インジョーカー』
- 柚木麻子『本屋さんのダイアナ』
- 全卓樹『銀河の片隅で科学夜話』
- 速水融『歴史人口学で見た日本 増補版』
- 太田忠治『浅倉玲一は信頼できない語り手』
- アガサ・クリスティー『満潮に乗って』恩地三保子訳
- トーベ・ヤンソン『小さなトロールと大きな洪水』冨原眞弓訳
- トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の彗星』下村隆一訳
- デラルド・ウィン・スー『日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション 人種、ジェンダー、性的指向:マイノリティに向けられる無意識の差別』マイクロアグレッション研究会訳
『日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション』を合間合間に読み進めてやっと通読できました。通読してみて、この本は一回通読したらその後、都度都度必要な節を読んでいけばよいなと思いました。各節にその節のまとめや展望などがついていること、節毎に独立したものとして読めるように前節までに言及していたことも繰り返し言及されていることなど、学習者に優しいつくりで、繰り返しに耐える本だと思います。ハイカーさんに大分前におすすめされて、読書会にもお誘いいただいたのになかなか読み進められなくて不調法してしまった私が言うのも何なのですが、おすすめです!
この関連で今 Google さんから薦められている本がこちらです。忘れたくないので、メモ代わりに紹介。
繰り返し、執拗に、日常的に見下されたり脅されたり、類型的に語られたりすることの悪影響について考えていく訓練の入り口に立てたように思います。
今話題の、藤見よいこ『半分姉弟』の第一話は、日々晒される〈あなたは「普通」じゃない〉という視線を「気にするな」と友人から言われてしまうことの痛みを描いています。
ほかに「勉強した」という感じがするのは、田中克彦『ことばは国家を超える 日本語、ウラル・アルタイ語、ツラン主義』、桑野隆、大石雅彦編『ロシア・アヴァンギャルド 6 フォルマリズム 詩的言語』、西田太一郎『新訂 漢文法要説』です。
ロシアが戦争を始めてしまったことに衝撃を受けて、それで読んだ本です。
田中克彦『ことばは国家を超える 日本語、ウラル・アルタイ語、ツラン主義』ではフィンランド、ハンガリー、トルコ、モンゴル、朝鮮、日本などの、まわりをインド・ヨーロッパ語族に囲まれて孤立しているように見えるウラル・アルタイ諸語の言語連合について書いたものです。その研究の興亡と、研究者田中克彦の誕生、来し方行く末が絡んで、結果的に複雑な戦後史料のようになっており、とってもおもしろかったです。
ツラン(表記はトゥランとも)主義は、ユーラシア大陸にちらばるウラル・アルタイ系諸民族の文化に「トゥラン文化圏説」として統一的なものを見出す運動で、起源を中央アジアに求めています。田中克彦は「近代国家の建設に出遅れて、チャンスを失ったウラル・アルタイ語族の政治的独立を獲得するための、文化・政治的行動のことである」と説明しています。日本では 1938 年日洪文化協会が結成され、ハンガリーやフィンランドからの来日も頻繁にあったようなのですが、アジア太平洋戦争敗戦で消滅しました。
ツランの名はその後忘れ去られてしまったと思っていたのに、目ざましく復活してきたのが、崩壊前後のソビエト連邦においてである。一九九九年モスクワを訪れた際に書店で見て驚いて手にしたのは、「ロシア文化におけるツラン要素」などの論文を集めたトルベツコーイの著作集『チンギス・ハーンの遺産』だった。(中略)もともとツランと呼ばれる歴史的空間とそこを舞台とした諸民族をそのまま含みこんで成立したのがソビエト連邦だったことを思えば、これは異常なことではない。ソビエト連邦とは民族構成から見れば、ロシア人の支配のもとにツラン諸民族を統合した「ツラン国家」にほかならない。 (田中克彦『ことばは国家を超える 日本語、ウラル・アルタイ語、ツラン主義』p.23)
戦前、フィンランドやハンガリーを中心にして起きていた、帝国主義への抵抗としてのツラニズム。それがロシア/ソ連の覇権主義に組み込まれていく過程が戦中戦後にかけて、確実に進行していたのだなと思います。その、仮想された帝国圏には西はフィンランド、東は日本が入っているのかもしれません。
『ロシア・アヴァンギャルド 6 フォルマリズム 詩的言語』は久しぶりに開きました。「学生時代に資料や参考書として閲覧していたものを通読してみるシリーズ」です。たまに気まぐれにやるとおもしろいです。昔読んだときはつっかえつっかえだったものがそうでなくなっているのを発見すると、「生きてきた私」という感じがしますし、昔読んだときと同様の緊張感を味わうと「本って、書かれたものってすごい」と思います。
『漢文法要説』は「辞書、参考書などを通読してみるシリーズ」です。これは 160 頁弱の手軽な本ながら、例文が豊富で、「ちょっと自信ないなあ」という項目についてとりあえずひととおり読んでみると、「……よし、何を調べればいいかわかったぞ!!」と自信をもつことができます。平素より頼りにしております。
下半期は仕事を休む予定なので、もっとたくさん読みたい、勉強したいという気持ちです。上半期はぼーっと悩んでいることが多く、それはそれとして避けようない時間でしたが、下半期はもすこししゃきっとしたいです。
と、思っていたら「しゃきっ!!」とした友だちからお誘いがあって、「しゃきっ!!」という気分でお散歩できておもしろかったです。
彼女と駅で別れた後に撮った花の写真も、いつもよりしゃきっとしているような気がします。
下半期、よい滑り出しを迎えることができました。
📚 おしまい 📚