プール雨

幽霊について

『アイドル・スタディーズ 研究のための視点、問い、方法』を読みました

アイドルを研究

 もし私が大学生で、『アイドル・スタディーズ』と『ふれる社会学』を読んだら、卒論でアイドル研究を選んじゃうだろうなと思いました。そして、「アイドルがいるこの社会」について勉強しているうちに「家父長制、悪魔の発明」というところにたどり着いて、しかし問題の大きさに筆が進まず、「一八九八年 戸主に家の統率権限を与える家制度、民法により規定」の文字を見ただけでぞっとしてしまい、「これは手に余る、卒業できない」と路線変更、アイドル歌謡の歌詞の分析にテーマをしぼるがそれはそれで広大で研究史を半端にまとめただけでタイムリミットを迎えてしまい、「いやだ、もっと勉強したい」と苦悶するのだろうなあ。

 アイドル歌手がいる社会に暮らしていて、アイドルファンとしてそこに組み込まれた生活をしていると大抵いつも苦しいです。特に女性アイドルは、この社会で寂しく辛い思いをしている人たち(基本的に男性)に元気を与える役割を担わされており、表現のスタート地点が基本的にに「苦しい」とか「辛い」とか「寂しい」になりがちです。そこから「元気」までアクロバティックに 4、5 分で持って行くのでうすらぼんやりと聞くことが許されません。

 たとえば、Juice=Juice というグループがいます。Juice=Juice は歌いっぷりがよくて好きなんですが、曲自体は自己啓発の枠に収まっていて、息苦しく聞きづらい。聞きづらいな〜もったいないな〜もっといい曲歌ってほしいな〜と長年思っていたらあるとき突き抜けてしまった。


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 Juice=Juice の新曲が『がんばれないよ』(2021 年 4 月 28 日)というタイトルだと聞いたときはひっくりかえりました。同時に「そりゃ、そうでしょ!」と納得してしまいました。

 『がんばれないよ』の前に『泣いていいよ』(2018 年 4 月 18 日発売)もあったのですが、「あったのですが」というか、「あったせいもあって」、なんかあのときは驚愕かつ納得していました。

 Juice=Juice はハロー!プロジェクト研修生から選抜されて出来たグループで、グループが出来てからどんどん歌がうまくなっていって、「すごく、とんでもなく努力するグループ」というイメージがあります。2015 年から 2016 年にかけて、200 本を超える本数の全国ライブハウスツアーを行い、その最後を武道館で締めくくったことも実績となっています。

 ハードコアに働いて努力して実績を重ねて、努力と反省と成長を歌い、その果てに『泣いていいよ』を経て『がんばれないよ』に至ったことにちょっと、やけくそめいたものも感じたのですが、実際にその歌を聞くとなんとも言えないものがあります。言葉になりません。

 アイドルは「未完成で、成熟していない歌手の成長を見せるものだ」という考え方の王道を行くようでいて、こんなふうに時折逸脱したものも見せる Juice=Juice です。

 「成長を見せる」といっても、最初からよく訓練されたプロの歌手だったんですけど。


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 うわ、難しい曲をさらっと歌ってるなあとあの頃はびっくりしていました。

 最近だとこの『Vivid Midnight』の充実とかすごい。


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 そもそも論でいえば、これは宮本佳林が Juice=Juice を組む前に歌っていた曲。最初からいい声で、うまい。

カリーナノッテ

カリーナノッテ

  • コピンク*
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 この曲を作詞した児玉雨子(雨子界の大スター)がソロになった宮本佳林に提供した曲がこれで、やっぱり、いつ聞いてもきれいな声だと思います。勝手に「ざべすのテーマソング」に採用しています。


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 Perfume がこうした息苦しさと無縁なのは、ポップスをこの街に、世界に贈るということに関して意識的だからだろうなと思います。みんながいる広い場所にどういう音楽を流したらいいかということについて、マーケティングとは別の具体的なアイデアがあるのだと思う。それは多分、スタッフも含めて当人達が歩き回って移動しまくってつかんだもので、そこには誤解もあるだろうけど、それでも具体的だからおもしろい。

 ハロプロの曲を聴いていると歌詞の引き出しが三つくらいしかないなと思う。「がんばれ」と「せつない」と「私・人間・地球・宇宙」。私、人間、地球、銀河、宇宙はまあ、いいとして、これら、歌詞オファー時の企画書がすけて見えるようなテーマがすべて自己啓発でくるまれている。そうした歌詞をもって、この社会で幸せにやっていくために許される程度の逸脱が演じられる。

 これだと歌ってる本人は「卒業したい」って早晩言い出すだろうなと思う。もちろん、現実にはもっと複雑だろうし、いろんな事情でそうなるんだろうけど、ファンから見えるものとしてはこの「歌詞のテーマの少なさ」がある。「がんばれ」「せつない」「私、人間」をずっと歌っていたら、それら以外の言葉を口にしたくなるのが人情では。でもファンは卒業できないので「うあああ」とうなっているよりほかない。

 歌詞はそんななんだけど、曲の方は時々ちょっとおもしろくて後を引く。先鋭的なものの気配がするとおもしろいし、そのおもしろさを歌手がうけとめて目がランランとなっているのを見ると「やっぱりおもしろいの、いいよね」と思う。だから、音楽に比べて言葉が縮こまって、遅れちゃっているわけで、そこはもう、若手のスタッフと作家ががんばるしかないのかな。

 突然ですがおわります。

 

 

🎼 来年に続く ♪