こないだめずらしく「お店でラーメン食べたい」という気持ちだったので、ラーメン食べました。
満足しました。
ラーメン、まあまあ好きな方だと思うんですけど、お店のラーメンにはあんまりなじみがないです。家では食べますよ。外でごはん、っていうときになかなか思いつかないのがラーメンです。たまに食べるとイベント感あります。
そして 4 カ月ぶりくらいに映画館で映画を見ました。
切り立つ崖から落ちて死んだ男性の、見開かれた目。刑事はその目を写真に撮り、自分もあの崖を登ってみなければならないと言う。背中に後輩を背負い、「なんで！ なんで登る必要があるんですか！ じゃ、実際落ちてみるっていうんですか！」という抗議の声を耳にしつつ、登りきり、頂上からの景色を見た。被害者には妻がいた。妻は夫の暴力に怯えていた。
その妻、ソレは中国からの移民で、死んだ夫は移民局で働いていた。介護の仕事をするソレにはアリバイもあり、夫の死は自殺で片がつきそうだったが……という事件捜査のいきさつと、刑事ヘジュンがソレに恋をしてしまういきさつとが絡み合います。
まず印象的なのは水、湿度の多彩な表現で、死んだ男の目を覆う水分に始まり、霧、雨、雪、海、そしてヘジュンやソレの目に浮かぶ涙まで、見ている間中、水中を行くようです。
それから、登場人物が個々に全然違う文体をもっていて、それが衝突したり絡んだり絡まなかったりするのもおもしろかった。ヘジュンの後輩、スワンは直情的というのか、「暴力、ダメ絶対」というヘジュンとは衝突しがちで、ヘジュンの注意は小言にしか聞こえません。でもヘジュンより体力がなかったりして、頭も上がりません。ソレは複雑なことは母語でしか話しませんし、ヘジュンの妻、ジョンアンは相関関係にあることを羅列するだけの、ちょっと特殊な話し方をします。彼女は言葉よりも結果というか、現状を重視するタイプで、語りかけた後じっとヘジュンを見つめる目や、なにか言いたげな口元の方がはるかに雄弁で、興味深い人物でした。
かれら、全然違う種類の言語体系を有した人たち同士が、階段の上と下で、マンションの室内と室外で、湯船の中と外で、それなりに注意深く言葉を交わしあい、伝わっているかどうか確認しあうように見つめあい、そして離れていくところが繰り返し映されていて、最後までずっと緊張が持続して、ちょこちょこと笑ってしまうところもあり、充実の映画体験でした。
「自分を埋葬する」というモチーフはこれまでも何度か見たように思うのですが、いつ見ても悲しく痛ましいです。
おすすめです！
それでここからは映画とすこし離れた感想になりますが、ひとつ自分の好みのようなものを再確認しました。私はどうも、恋愛というモチーフがあまり好きでないというか、できれば作家にそこを避けてみせてほしいという期待を抱いているようなのです。特に男女の恋愛が避けられない、自然なこととして描写されてしまうと、鼻白むことすらあります。
『恋に落ちたシェイクスピア』をこないだテレビでやってたので久しぶりに見ました。戯曲『ロミオとジュリエット』ができあがっていく過程と、スランプに陥っていたシェイクスピアがモチーフを発見する過程、そして「父の所有物」であったヴァイオラに別の所有先が決まり、彼女がそこへ行くまでのほんの短い期間に夢を叶える過程とが結びついた見事なお話だと思いました。そしてその見事な話にシェイクスピアとヴァイオラの恋って必要だったか……？ と、どうしても不思議に思ってしまうのです。不思議に思うというか、頭の隅でがっかりしていることを自覚せずにはいられません。大変なモチーフが三つもあって、更にそこに恋愛事件も加わるとなると、大事なモチーフが霞んでしまうのではないでしょうか。
ではないでしょうか、と誰に語りかけているわけでもないのですが。
でも、愛は大事だと思いますし、愛は鉄より強いと思います。『別れる決心』の冒頭で示されるのは、ヘジュンが真実を愛しているということです。その愛を、「女に溺れて」捨てることになり、自分自身を見失うのが本当に痛ましく、くやしいです。また、スワンはああは言っていますが基本的にヘジュンを尊敬しており、ヘジュンとの仕事を楽しんでいます。それも愛だと思いますし、映画の最初の方で出てくるヘジュンとジョンアンの食事シーンは愛に溢れていました。職場の人も、妻も、あの変わり者のヘジュンのことが基本的に好きなんですよね。
そういうことのすべてが、ヘジュン自身の視線により崩壊してしまいました。
そんなわけで、見てから数日経っていますが、まだまだじっくり思い出す日々が続きそうです。
映画館から出てぼんやり歩いていると、つぐみがとことこと歩いていました。
早咲きの桜が咲いていました。
🎦 おしまい 🎥
