プール雨

幽霊について

「AMNESTY NEWSLETTER」 Jan.- Feb. 2023 vol. 503 を読みました

 特集は「自由権規約委員会の日本審査を振り返る」でした。

 「市民的及び政治的権利に関する国際規約」通称「自由権規約」を 1979 年に批准した日本政府ですが、国内人権機関の設置を求める勧告にずっと応じていません。

日本は 1998 年の 4 回目の審査で初めて、国内人権機関の設置を求める勧告を受けました。その後も毎回勧告され続け、また拷問等禁止条約女性差別撤廃条約などの他の人権条約機関からも、代わる代わる同様の勧告を受けてきました。そしてそのたびに、「検討している」という回答を繰り返しています。20 年以上も検討中の足踏み状態であることに対し、今回ついにフォローアップ対象となりました。(「AMNESTY NEWSLETTER」 Jan.- Feb. 2023 vol. 503 p.7 より)

 フォローアップとは、勧告から一年以内に委員会に報告する義務を負う一連の手続きのことです。

 「人権」や「差別を禁止する」という言葉にびくっとする人は多いようです。そのこと自体、宗教右派による政治活動の成果だと思います。20 年以上前から国内の人権状況について国際的に勧告されつづけ、政府が事実上それら勧告を無視してきた経緯はそのまま、政府が日本に住む一般市民の人権を軽視し、抑圧してきた歴史に重なります。

 包括的な差別禁止法がなく、性的指向性自認に基づく差別表現が政府の中枢にいる人物の口から出ることすらある状況で、当然ヘイトスピーチヘイトクライムに対する対処など政府はせず、かれらはむしろ煽動する側に立ちます。ヘイト行為は政府によって力づけられています。政府は一般市民を敵視していることを隠そうとすらしません。監視や管理に多くのコストを割いているのがその証拠です。平和的集会の権利に至っては抑圧されることがあり、少数派の権利を与党の政治家自らが否定してまわります。

 これが、私たちの社会のここ 20 年くらいの「成果」なんだなあと思います。政治家と宗教右派各勢力が手に手をとって、この小さな列島上に自分たちの「美しい国」を作ろうとして、事実上実現した。

 20 年前、夫婦別姓制度へのアクションを取り始めたカップルは今、四十代、五十代にさしかかっていることでしょう。20 年前、同性婚へのアクションを取り始めたカップルは今、やはり四十代、五十代へと向かっている。性的指向性自認に基づく差別にしても、「慰安婦」問題や技能実習生の問題にしても、アイヌ差別、沖縄差別、在日コリアン差別にしても、その人たちの重い人生と命と時間を思えば、「不当な差別」などという謎のジャーゴンを用いて学ぶことも考えることも働くことも拒否するその言動を赦すべきではありません。

www.amnesty.or.jp

 このところずっと、トランスジェンダーに対する宗教右派からのまとまった攻撃が行われていて、平素そうした問題から遠い人が最初に目にするものが、攻撃の文脈にある言葉(風呂・トイレ・スポーツは典型的な攻撃の道具になっています)だというのが、大問題だと思っています。基本として、属性と犯罪を結びつける言動、恐怖を煽る言動はヘイト表現としてかっこにくくっていいと思います。

 政府がそうした差別を「不当でない」と言っているような状況では、テレビや新聞の報道に対しても一定程度以上の構えが必要になります。漠然と眺めていると、いつ、自分が加害の輪に加わっているか、わかったものではありません。

 ネットの世界はとても野蛮で、ヘイトとでたらめが横行し、優勢なのはサイコパスを真似たような文体です。スムーズに、平気でウソを言う営みが事実上推奨されている世界です。

 その中で、少しでもまともなものを目指すんだという、希少な運動と積極的に連帯していきたいです。