こんにちは!
黒部峡谷の玄関、宇奈月温泉は当日、おすもうさんたちも来ていて、ざべすは不思議な気持ちで街を歩きました。
宇奈月温泉駅のそばにはカフェモーツァルトという喫茶店があり、
ざべすたちはそこでいったん休憩して、黒部峡谷の興奮をさますことにしました。ざべすはざべすにふさわしい、カフェ・ロワイヤルをいただきましたわ。
おいしいコーヒーをいただいて落ち着いてから街を歩いてみると、
なんともかわいらしいところなのでした。
お夕飯は「味処 河鹿」さんでいただくことにしました。
と、この辺りまでざべすたちは無心でおいしい! おいしい! と飲んで食べてただただ酔いしれていたのですが、よく見るとお店は人気店で、あっという間に満席になり、その満席の大勢のお客さんに、たった二人(厨房ひとり、フロアひとり)の店員さんがさらりさらりと応対しているのでした。
そのことにふと、驚きつつ、ざべすたちはおもうさま、名物をいただきました。
揚げたてのあつあげ、おいしかった。
白えび、甘かった。
かまぼこのてんぷら、初めての体験。
そして名水ポークの角煮釜飯です。
全部全部おいしくて、お昼ごはんがチップスターであったことすら、このおいしい晩ごはんのためだったのだな、と深く納得できるほどでした。
よく考えると、富山では必ず、とんでもなくおいしいものを食べています。とんでもなくおいしいものと、おいしいものしか、富山では食べたことがありません。ざべすたちがお客さんだからとはいえ、富山は美食の街なのですね。
おいしかったー! と声に出して外に出て、夜の宇奈月温泉を歩くと、涼しくて、それだけで楽しい気持ちになりました。おなかいっぱい、すずしい、あとは温泉に入って寝るだけ。
しかし、
なんと、この街にはごくごく当然のこととして、猿が、
暮らしているのでした。
ざべすたちはあの電線の下をくぐる勇気が出ませんでした。見つめられているような気がしたのです。それで、くるうりと引き返して、いそいそと宿にもどることにしました。
雨子が「猿とくれば哀切な鳴き声と申しまして……」となにやら悲しい話を始めそうな雰囲気を醸し出したので、ざべすたちは「わーーー!!」と叫んでホテルに駆け込みました。
ホテルのロビーにはおすもうさんがいました。若いおすもうさんが先輩おすもうさんに「……っすよー」「……っすよー」となにかいいかげんな感じで話し、先輩が「それはだめだよ、……しないとね」と優しくさとし、それでも若造さんが「へいきっすよー」と答え、また先輩が「だめだよ……しないと」と穏やかに話しているのがずっと響いていました。ざべすは、おすもうさんもほかの職業の人とかわらないのだな、と思いつつ大浴場に行き、ぽちゃんと温泉につかり、露天風呂で風にふかれました。さらさらと透明なお湯が気持ちよかったです。そしていい気分でお風呂から出ると、「あー、つかれた……」とつぶやくおすもうさんとすれちがいました。おすもうさんも、みんなと同じに、一日働いたら思わずひとりごとを言ってしまうくらいつかれるということを知りました。
思いがけず、おすもうさんが人間であることに触れられる日となりました。
お部屋ではこのあと、ビールやサイダーを用意して遅くまでどんちゃん騒ぎをするつもりでしたが、気付くと眠っていました。ベッドで寝るのは久しぶりだったので、ざべすはなるべく起きていたかったのですが、いつ寝たかもわからないくらい深く眠ってしまいました。
ビュッフェでごはんを食べて、荷物を片付けて、もうここを旅立つのだと思うと、さみしい気持ちがしました。
またここに来ることがあったら、同じカフェモーツァルトに行ってカフェロワイヤルを飲んで、同じ居酒屋河鹿に行ってしろえびとかまぼこのてんぷらを食べます。そして同じホテルに泊まって、温泉に入ってビール飲みます。そしたらきっと、月を見て猿の声を聞きます。そのときに歌でも詠めたらいいなと思います。
おわります。