読書が計画通りに行きません。無念です。でももう、しょうがないかなと諦めてもいます。日本語日本文学専攻のわりに読むのが遅く、せいぜい週に二冊というところなので、あまり欲張って計画倒れが重なるのも切ないです。今年は一層、快適さ重視で読書を楽しみたいです。
2023 年はよい本を読めました。「なんだかなー」と思うような本は一冊しかありませんでした。運が良かったです。今後も運頼りにどんどん読みたい。
以下、印象に残った本の読書メモです。
🚋 金井真紀『日本に住んでる世界のひと』、岡真理『ガザに地下鉄が走る日』🚋
- 2024 年最初に見た映画は『イミテーション・ゲーム』(2014 モルテン・ティルドゥム)でした。帝国の戦争にかり出された研究者がナチスの暗号機エニグマの暗号を解読するためのマシンを作りだし、戦争終了に寄与した。にもかかわらず、その作戦は極秘とされ、主人公は諜報部の監視対象になった上に同性愛で有罪となり、わずか 41 歳で自殺してしまう。その理不尽で残酷な経緯のなかに主人公たちの青春も友情も愛情もつまっていて、怒りが止められませんでした。死後 59 年にしてエリザベス女王から恩赦が与えられたというテロップが入ったところではさらに怒りがつのりました。この受け入れがたい罪の歴史のあとに自分たちが生きていることに対して、どうしたらいいかわかりません。
- 第二次世界大戦後のイギリス、アメリカ主導の中東政策を振り返ると、植民地主義という悪魔に人類は食い荒らされ続けているとしか思えません。でも、人から住む場所を奪い、生産手段を奪い、死に追いやっているのは、人なのです。災害などではなく。人が人に筆舌に尽くしがたい暴力をふるっているとき、必ずそれを可能にする「法」があります。それが一体どのようなもので、どのようにしてまかり通るのか、じっと見て、告発を続けなくちゃいけません。日本を含めて「西側」諸国は中東に帝国と資本の暴力を輸出して、ガザという悲劇を生み、その責任を取っていない。何十年もそれを可能にしているのはどのような「法」なのか。
🎤 内藤千珠子『「アイドルの国」の性暴力』🎤
- 年末年始、久しぶりにテレビでアイドル歌謡を聴いていて、「うわあ、ややこしい」と思いました。あの若い人たちがずっと創造的に音楽の仕事を続けていって、人生上のいろんな変化を生きながら続けて行けたとしたら、ちょっと話は違ってくるというか、そのようなことが可能になっている社会であれば、そのときにはアイドルの意味もかわっているだろうと思います。でも、そうでないなら、ファン自らそう考えられないとしたら、この産業が示しているのはやっぱり袋小路なのではないでしょうか。
- 未熟なところのある若い人たちが非常に難しい歌を歌い、踊り、それを簡単そうに見せることや、鍛錬していることも含めて健康であること、人生を謳歌していると表現することなど、アイドルに求められることはとても多く、それはかれらを見ているファンが日々働くときに求められていることとも鏡合わせの関係になっています。言われた通りにやれ、しかし気を利かせろ、機嫌良くしていろ、云々。労働市場で競わされ、「人材」として比較され、さまざまな配慮を当然のように期待されながら、適正な対価は得られず搾取される側が、自分と同様に苦しい労働環境を生きるアイドルに熱を上げるというのはやっぱりどう考えても不健全です。そこで手に手を取って労働環境をよくしていく議論に繫げられるのならいいのですけど、相変わらず、恋人との写真が流出したりすると「プロ意識がない」ってことになってしまうのでしょう? 変ですよね。私は変だと思う。
🚶山口智美/斉藤正美『宗教右派とフェミニズム』、森山至貴×能町みね子『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ 性と身体をめぐるクィアな対話』💃
- 安倍晋三はキャリアの最初期から性を国が管理する態度を隠していなかった。学校での性教育を抑圧し、市民がそれぞれに自身の身体と向き合い、その性と身体について自分で把握することを邪魔した。おかげで今や、知らないうちに妊娠し、流産してしまった夫婦がどうしたらいいかわからず行政に相談したところ、そこから医療に繫がるどころか、逮捕されてしまうという事件まで起きている。どんな知識を与えるか決めるのはこちらだ、と日本政府は言うのだけれども、それではみんな自分を守れない。
- 社会の側が「性はこの二種類しかない」「あなたはこちら側の性だからこうすべき」と決めてかかることで、だれもが自分の体を知ることから遠ざけられてしまっていないか。そのせいで、他人の性のあり方を自分が判断できるとグロテスクな思い込みをもつ人が出るんじゃないか。
- だれとも違う自分の体をよく知ること、自分を大切にすることは、自分と同様にほかのだれとも違う他者を大事にすることに繫がると思う。
🦔 ミック・ジャクソン『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』田内志文訳、ダグラス・アダムス、マーク・カーワディン『これが見納め 絶滅危惧の生きものたちに会いに行く』安原和見訳 🦌
- 人間のせいでいろんな生きものがイギリスから、世界からいなくなり、これからもいなくなるのですけど、自分たちが一体何をしているか、私たちはよくわかりもせずに重大なポイントを通過して、あとになって「あのときああしたせいでこんなことに」と気付く。
🏠 尾崎礼子『DV被害者支援ハンドブック サバイバーとともに』、テミス法律事務所・柴田収監修、紅龍堂書店編著『毒親絶縁の手引き DV・虐待・ストーカーから逃れて生きるための制度と法律』、三木那由他『言葉の風景、哲学のレンズ』👜
- 「毒親」という言葉はとてもきついし、相手を悪魔化することにつながってしまうので、「加害親」とか「加害者」のままではダメなのかと思ってました。
- 子が親から、または妻が夫から「逃げるしかない」と決断をするのは大変なことで、また決断をしてから実際に行動に移すまで、行動に移してから生活を軌道に乗せるまで、さまざまな関門があり、その間、ずっと逃げ続け、生き延び続けなきゃいけない。そのときには「毒親」といった強い言葉が必要だということなのかもしれません。特に子が親への気持ちを絶つにはそれくらいの言葉でもないと生き延びることができない、そういうことなのだと思いました。
- DV 被害者が「これは DV だ」と認めるまでの道のりもすごく長く、多様です。「モラハラ」「パワハラ」といった言葉を揶揄する人もいますけど、被害者が自分は傷ついている、DV 被害に遭っている、これはモラハラだと認識することが生き延びる第一歩で、そういう、目印になるようなはっきりした言葉が必要なんですね。
- 自身の状態を「疲労」または「過労」と解釈していた場面を、あとになって「あのとき、傷ついていたんだ」と気付くことがあります。加害者の事情はさておき、誰もが暴力とはどういうものか、日々暴言にさらされることが人間にどのような傷を残すかということについて、知識をもっておいた方がいいと考えます。暴力を知っていること、そういう知識をもった人が多いこと、そういった条件がそろえば、暴力は避けられるものになっていくと思います。
📚 おしまい 📚
〜 2023 年に読んだ本リスト(読んだ順)〜
- アガサ・クリスティー『ハロウィーン・パーティ』中村能三訳
- アガサ・クリスティー『象は忘れない』中村能三訳
- ロイ・ポーター『狂気 MADNESS a brief history』田中裕介・鈴木瑞実・内藤あかね訳
- ダグラス・アダムス、マーク・カーワディン『これが見納め 絶滅危惧の生きものたちに会いに行く』安原和見訳
- 恩田陸『隅の風景』
- 雨宮処凛『なにもない旅 なにもしない旅』
- 金井真紀『日本に住んでる世界のひと』
- アガサ・クリスティー『カーテン』田口俊樹訳
- 香西秀信『レトリックと詭弁』
- アガサ・クリスティー『ポアロとグリーンショアの阿房宮』羽田詩津子訳
- 小田嶋雄志『駄ジャレの流儀』
- P・D・ジェイムズ『女には向かない職業』小泉喜美子訳
- 吉村栄一『YMO 1978-2943』
- 東畑開人『聞く技術 聞いてもらう技術』
- ウー・ウェン『10品を繰り返し作りましょう わたしの大事な料理の話』
- 川口晴美『やがて魔女の森になる』
- W. クレイヴン『ブラックサマーの殺人』
- コナン・ドイル『詳注版シャーロック・ホームズ全集 3』小池滋監訳
- 深町秋生『探偵は田園をゆく』
- 深町秋生『探偵は女手ひとつ』
- 津村記久子『水車小屋のネネ』
- 相澤與一『日本社会保険の成立』
- アガサ・クリスティ『ミス・マープル最初の事件 牧師館の殺人』山田順子訳
- アガサ・クリスティー『牧師館の殺人』田村隆一訳
- ジョン・ル・カレ『スパイたちの遺産』加賀山卓朗訳
- ジョン・ル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』宇野利泰訳
- フィリップ・K・ディック『アジャストメント』大森望編
- アガサ・クリスティー『書斎の死体』山本やよい訳
- 内藤千珠子『「アイドルの国」の性暴力』
- アガサ・クリスティー『動く指』高橋豊訳
- コナン・ドイル『シャーロック・ホームズ全集 7』小池滋監訳
- 高島鈴『布団の中から蜂起せよ アナーカ・フェミニズムのための断章』
- 田熊隆樹『アジア「窓」紀行 上海からエルサレムまで』
- シオドラ・ゴス『メアリ・ジキルと怪物淑女たちの欧州旅行Ⅰウィーン篇』原島文世訳
- シオドラ・ゴス『メアリ・ジキルと怪物淑女たちの欧州旅行Ⅱブダペスト篇』原島文世訳
- 小林昌樹『調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス』
- ミック・ジャクソン『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』田内志文訳
- 石原千秋『教科書で出会った名作一〇〇』
- 春日武彦『無意味とスカシカシパン 詩的現象から精神疾患まで』
- アガサ・クリスティー『魔術の殺人』田村隆一訳
- 松村圭一郎『小さき者たちの』
- アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー 上』小野田和子訳
- アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー 下』小野田和子訳
- 王谷晶『君の六月は凍る』
- D・アダムス『さようなら、いままで魚をありがとう』安原和見訳
- 西田太一郎『漢文の語法』齋藤希史・田口一郎校訂
- アガサ・クリスティー『ポケットにライ麦を』宇野利泰訳
- 川奈まり子『実話怪談 でる場所』
- 周司あきら・高井ゆと里『トランスジェンダー入門』
- 小川洋子・岡ノ谷一夫『言葉の誕生を科学する』
- 今井むつみ・秋田喜美『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』
- 柳父章『翻訳語成立事情』
- 齋藤美奈子『出世と恋愛 近代文学で読む男と女』
- 齋藤兆史『日本人と英語 もうひとつの英語百年史』
- 津村記久子『うどん陣営の受難』
- 今井むつみ『英語独習法』
- フェルディナント・フォン・シーラッハ『コリーニ事件』酒寄進一訳
- フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』酒寄進一訳
- M・W・クレイヴン『キュレーターの殺人』東野さやか訳
- 丸山昌樹『刑事何森 逃走の行先』
- 世田谷文学館・世田谷美術館『都市から郊外へ 一九三〇年代の東京』
- ディアナ・レイバーン『暗殺者たちに口紅を』西谷かおり訳
- 山口智美/斉藤正美『宗教右派とフェミニズム』
- 村上春樹『風の歌を聴け』
- アンソニー・ホロヴィッツ『ナイフをひねれば』山田蘭訳
- 森山至貴×能町みね子『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ 性と身体をめぐるクィアな対話』
- 鈴木喜久子『大河が伝えたベンガルの歴史 「物語」から読む南アジア交易圏』
- ケヴィン・ラシュビー『女王陛下のダイヤモンド』橋本槙矩訳
- マーティン・エドワーズ『処刑台広場の女』加賀山卓朗訳
- 志村ふくみ『ちよう、はたり』
- アガサ・クリスティー『ハロウィーン・パーティ』山本やよい訳
- 鹿紙路『玻璃の草原』
- 丸山正樹『夫よ、死んでくれないか』
- 長谷川京子、佐藤功行、可児康則『弁護士が説く DV解決マニュアル』改訂版
- 尾崎礼子『DV被害者支援ハンドブック サバイバーとともに』
- M・W・クレイヴン『グレイラットの殺人』
- テミス法律事務所・柴田収監修、紅龍堂書店編著『毒親絶縁の手引き DV・虐待・ストーカーから逃れて生きるための制度と法律』
- ロレン・ノードグレン、デイヴィッド・ションタル『「変化を嫌う人」を動かす 魅力的な提案が受け入れられない4つの理由』船木謙一監訳、川﨑千歳訳
- 立原道造『盛岡ノート』
- 三木那由他『言葉の風景、哲学のレンズ』
- サンダー・エリックス・キャッツ『サンダー・キャッツの発酵教室』和田侑子、谷奈緒子訳
- アガサ・クリスティー『パディントン発4時50分』松下洋子訳
- 藤野可織『ピエタとトランジ』
- バーバラ・エーレンライク、ディアドリー・イングリッシュ『魔女・産婆・看護婦 女性医療家の歴史』長瀬久子訳
- アガサ・クリスティー『鏡は横にひび割れて』福本和夫訳
- 岡真理『ガザに地下鉄が走る日』
- 『平家物語 1』古川日出夫訳