プール雨

幽霊について

ざべす辺境伯国建国記念伊香保散歩 ⑵

ざべすよ!
〜前回までのあらすじ〜

 ざべす辺境伯国の建国記念日を祝って伊香保温泉にやってきた私たち。宿に行くには階段をのぼるしかない。三六五段。こんぴらさんほどではないとはいえ、比較の問題ではありません。雨子はのぼりきれるのでしょうか。不安におそわれたとき、目の前にすてきなカフェがあらわれ、そこで甘いものを摂取して、雨子はやっとのことで階段をのぼる勇気を得たのでした。

〜今回のお話〜

 そしてやって参りました。この旅のお目当てのひとつ、旅館、横手館です!

じゃじゃーん

 なんと、元禄の昔から、はたごとしてやっているお宿だそうです。お宿の説明が用明天皇から始まった(伊香保温泉の歴史)ので、ざべすはいつになったらこの宿自体の歴史が聞けるのだろうとすこし不安になりましたが、徳富蘇峰徳冨蘆花の名前が出てくる段までくるとほっとしました。この建物は 1920 年からここにこうしてあるそうです。用明天皇を基準にするとつい最近ですが、今のざべすから見たらうんと昔です。頼もう!

 と、入ってはみたものの、まだチェックインの時間ではなかったので、ざべすたちはすごすごと荷物だけ預けて、近隣の散策に乗り出しました。

さらに登ってみましたよ

山の斜面に建っている建物の間から川の気配がします

 この山を登るということは、源泉噴出口の方に近づいていくということで、こんな露天風呂の施設もあります。

ここが入り口かどうか、いまひとつわかりませんでした

 温泉も飲めます。

飲みました

 噴出口の辺りにいてそれを見ていたはずなのですけど、ざべすたちはすっかりぼんやりしていたようで、写真が残っていませんでした。かわりに、このような看板を見つけました。

天然ものです

 眺めがいいので、ぼんやりしてしまったようです。

やまなみ

 さて、こうしてのぼりきった階段を、今度は降りてみましょう。雨子は「おりるとまたのぼらなくちゃいけません」と情けないことを言いましたが、降りきったところにあるクレープ屋さんのことを思うと、するりするりと降りられるのでした。

これがそのクレープです!

 クリームもクレープもおいしくて、みんなで「おいしいね、おいしいね」と言いながら食べました。

 階段を降りたところには、ハワイ王国公使別邸がありました。

すずしそうです

 ハワイがアメリカの州ではなくて、ひとつの独立国だったころの公使さんが、夏に保養のために伊香保に建てた別荘だそうです。

風も光もぴゅ〜とふきぬけます
くらしやすそうです

 この頃、夏、うんと暑いので、基本的にこういう風通しのよさそうなおうちがよいのではないかと、ざべすは考えます。

 この近くに徳冨蘆花記念文学館があるのでそっちにも行ってみました。ざべすにとっては知らないおじさんですが、写真を見て「いい人のようです」と思いました。

愉快そうな方です

 この記念館の人は徳冨蘆花さんをとても尊敬しているようで、「蘆花先生のことはご存じですか。もしよろしければこちらに映像がございますので、ご覧いただき、その後に私どもから簡単なご説明を……」ときらきらした表情でおっしゃいました。

 雨夫は心のなかで「これは困ったことになったぞ」と思ったと言います。

 徳冨蘆花を知っているかと言われれば、まあ、知ってはいる。著作も読んだ。しかし、よく知っているかと言われれば、知らない。知り合いではもちろんないし、ヒット作『不如帰』を思い出そうにも、突然の展開に驚いた、その自分の驚きしか記憶にないのだから。

 と、そう思い、雨子も「『不如帰』……基本的にものすごくひどい話で、後半になって突然信仰問題が出てきてびっくりした記憶しか……ガイドをしていただくほどの真剣さは私には……」とテレパシーで伝えたそうです。二人は勇気を出して、つとめて笑顔で、「えいぞうは、けっこうです」とガイドを断って、すいすいと展示室に入り込みました。

 「いやあ、この徳冨蘆花って人は立派な人らしいねえ」

 と、なぜか口調がそんな感じになりつつ、私どもはこの文学館の裏手に移築されている記念館に参りました。

日当たりと風通しがよさそうです

 こちらは蘆花さんがお体を壊して、伊香保で療養されていたとき逗留した旅館の離れだそうです。蘆花さんはここで息を引き取ったのだそうです。

おじゃましまーす
蘆花さんご使用のベッドとガウン

 ガウンがきれいなまま残されていて、あれからいろんなことがあったはずなのにこんな風に保存されているなんて、この土地で敬愛されているのだなあと思いました。

蘆花さん、入浴風

 こんな風にごきげんな写真が残っていて、お友達もいっぱいいて、写真でお顔を見ていると、ざべすはなんとなく呼びかけたくなってきました。

この窓から外を眺めたこともあったのでしょう

 『不如帰』は結核にかかった若い女性が無念をかかえて亡くなってしまうお話なので、ざべすはちっとも好きではありませんでした。若い女の人が亡くなってしまうのがロマンチックだといえるような世界はざべすはイヤですわ。生き抜いて生き抜いてでんぐりがえしして生き抜いてほしいです。あるいは、勉強に勉強をかさねて、座っていたざぶとんの下の畳が腐るとか、それでそのことを友だち同士であはは、あははと笑って手に手をとって生き抜いてほしいです。

 しかし、それとは別にお友達がたくさんいて、みんなに看取られながら亡くなった蘆花さんがあっちに行ったりこっちに行ったりして蘆花さんなりに大冒険の日々を送ったのがすこしわかって、ざべすはよかったです。

 蘆花記念館をあとにして、ぶらぶらとお散歩しました。山路にそって建物が建っているので、平地の建物とは様子が違って、それもまたおもしろいのでした。

坂に沿っています

  そしていよいよ、百年ここに建っている横手館にチェックイン!

入ります!

 館内は窓から光がさんさんとふりそそぎ、構造が複雑で、あっちの階段をのぼってもこっちの階段をのぼってもどっちの階段をのぼってもよい仕組みで、ざべすは「冒険のしがいある」と思いました。お部屋は「若竹の間」でした。『源氏物語』で養女の玉鬘に深い気持ちを寄せる光る君が庭に若竹の青々としているのを見て「ませのうちに根深くうゑし竹の子のおのが世々にや生ひわかるべき(この邸に根を下ろして育った竹の子もいずれは自分と縁のある人と関係をもって私の手を離れていくのだろうか)」と恨み言とも取れるようなことを言った場面を元にしているとかしていないとか。情緒が複雑すぎて、ざべすには難しいので、若竹の件は忘れようと思います。

お部屋に飾られた若竹の絵

百年前からおしゃれ

 お風呂から上がってほかほかすると、いよいよごはんです。みなさんは、旅館のごはんは好きですか? ざべすは大好きです! いろんなものが食べられるからです。

前菜です!

煮物です!

サラダです!

豚肉の朴葉焼きです!

ごはん!

デザート!

 ゆっくりゆっくり、いろんなものをよく噛んで食べて、ざべすはとってもおなかいっぱいになったし、おいしかったし、幸せを感じました。

群馬らしいしつらえ

 お腹いっぱいになったので、夜の伊香保温泉をお散歩してみることにしました。

 街灯が階段を照らして、とってもきれいでした。

きらきらです

 365 段の真ん中辺に「ここがまんなかだよ」と示す看板があり、しんせつだなと思いました。

へそをアピール

与謝野晶子さんはこの階段を「Hの字を無数に」積んだと表現

 このときこの階段で、テレビの撮影とすれ違いました。タレントさんが二人、「上がって降りて大変」と言いながら駆け足で降りていき、それをカメラ、マイク、照明などをもった大勢の人たちが追いかけて行き、たいへんな重労働だと思いました。一群のうしろに、撮影集団の中では比較的年齢を重ねている人が「体力的に限界である」という表情を浮かべながら小走りのみなさんについていっていました。

 ざべすたちはそんなみなさんを見ながらお宿に帰り、

ただいま!

お部屋でもう一杯やりながら「今日はおもしろかった」と話に花を咲かせました。

ぐんまちゃんの梅酒です

 ああ、おもしろかった。

 今思い出してもおもしろかったです。

🚶つづく 🏃