プール雨

幽霊について

マダム問題 2024

 私が延々見ている『ヴェラ』の最初のシーズンがアマプラで公開されていたので一気見しました。

 ああ、すばらしかった。

 一話だけちょっと演出が違っていて、カメラがゆらゆらしてるドキュメンタリー風味なんですが、二話目からは一貫して少し引いた、抑制的な演出になります。

 第一話冒頭近くでは家族といるジョーの映像が映し出されます。ジョーは三人目の子が生まれるところです。このジョーと対比的なのがヴェラで、彼女は父親を亡くしたところです。彼女は自身のこととなるとからきしダメで、父と向き合えず逝かせてしまったこと、自身をケアしてこなかったことなどがこのシリーズを通して響いていきます。

 それはともかく、新しい生命を迎え入れるジョーと父親を見送ったばかりのヴェラ、家族とともに生きるジョーと一人で生きるヴェラと、その対比ははっきりしています。

 でも、このあからさまともいえる二人の対比が、見ていると全然気にならないところがこのドラマのすごいところです。当たり前のことに見えてくる。ジョーは子どもと妻のことで悩んでいて、疲れている。ヴェラは人嫌いで家族をつくってこなかった自身を省みることがある。

 実際に今起こっている事件の追及もあるとはいえ、これほど対照的な人物二人を組ませながら、ドラマは図式的にならず、きわめて具体的に、リアルに、繊細に前へ、時に後へ進みます。

 おすすめです!

 ところでここからが本題です。このドラマは、警部のヴェラが率いる捜査課が舞台になっています。ヴェラが上司です。捜査課の面々はヴェラを「マーム」と呼びます。「イエス、マーム」、「マーム、ちょっといいですか」などなど。マームはマダムの d がとれたやつで、みんなヴェラのことを "ma'am" って呼んでいます。対義語は "sir."。目上の女性に呼びかける際に伝統的に使われてきた語で、警部のヴェラをそう呼ぶのは常識的なことなのですね。ある程度。英語圏の外から見ると、ニュアンスがわかりにくいので、字幕はいつも「警部」です。

 それで急に思い出したのです。ここからは記憶で書くので(どうしてもネット検索はしたくない。多分イヤなものが目に飛び込んでくると思うから)、固有名については尋ねないでください。ある日本人フィギュアスケーターが海外を拠点に練習していたとき、「マダムって呼ばれるの」と言っていたらしいのです。多分その人は「とほほ」的な感じで言ったのだと思いますが、「マダム」って言うか、"ma'am" って呼ばれたんですね、多分。言った人は「お嬢さん」とか、もしかしたら立場的にはそのリンクの中でまとめ役のように見えるあなた、というニュアンスを込めていたかもしれません。とにかく、彼女が「とほほ」と思うようなニュアンスは(言った側の文化からすると)なかったのだと思います。でもま、イヤならドント・コール・ミー・マダムって言ってもよかったと思うし、一回言えばそれで済んでたんでしょうけど、彼女も若かったので言えなかったんですね、多分。なるほどねえ(全部想像です)。

 そしてついでに思い出した。私がまだ二十代の頃です。「マダム」って呼びかけられたんです。道端で。海外からみえた観光客のようでした。「マダム、すいませんけど、駅に向かう道を教えて下さい」と言われて、私は「ドント・コール・ミー・マダム、おとといおいで」とか言うわけもなく、淡々と駅までご案内したのです。そんで「奥さんって言われた……」とショックを受けていました。

 語学力がないとこういうことがあるから不便です。

 あれも「奥さん」じゃなくて、「そこの方」とか「お嬢さん」とか、そんなあれだったんですね。

 むう。

 それでこんなレポートがありました。

www.linkedin.com

 期待したよりうすらぼんやりしたレポートでしたが、私の英語力にはぴったりでした。

 Intead of, "Yes ma’am," just say, "Yes."

 現在第 13 シーズン絶賛放送中と噂のヴェラ。"Yes, ma’am" 問題はどうなっていることでしょう。私はまだ第 5 シーズンです。CS や配信に弱い私が『ヴェラ』を全シーズン見終えるには一体何年かかることでしょう。

📺 おわり 📺