プール雨

幽霊について

「ルールがわからない」対「冗談が通じない」〜『首』を見ました

ひとんちの薔薇

 そういえば、水曜日は映画の日

 『首』を見てきました。

ばばーん

 秀吉が天下人になる前夜の、何度も何度も映像化されてきたくだりを北野武がつるっと新しく映画にしました。

 リアルさや重みは追究しておらず、全体にからっとした画面で、要所要所、合戦のシーンなんかはきっちりポイントをおさえるものの、見ているこちらの首にまで手がかかってくるような「画面から脅される感じ」はないです。決して安っぽくなく、「お話だよ」という信号を出しつづける。そこは知的におもしろい感じがしました。

 織田信長がハンドルを握っているゲームのなかで浮いている人物が二人。一人は羽柴秀吉で、「こいつらがしてるゲームのルール、わかんねえな」って顔してる。もう一人は明智光秀で、冗談が通じない。すべてに真剣に、真正面から答えるため、「つまらないやつ」呼ばわりされてる。

 でもこの二人が実力者なんですよね。

 信長は、俺の跡目を継ぐのは「サル(秀吉)か、それともハゲ(光秀)か?」とこの二人の対立を煽っています。

 もう一人の実力者、徳川家康は狸じじいと呼ばれる道をせこせこと歩き、小まめに影武者を立てたり、情報をチェックしたりして生き延びていきます。すくなくとも家康は死にそうにないなという感じがする。

 危ないのは「ルールがわからない秀吉」と「冗談が通じない光秀」。

 おもしろかったです。

 秀吉の言動からは「武士、くだらねえなあ!」という嫌悪感がまるみえで、他の武将とは全然別の手を打てそうな雰囲気がある。それに比べると光秀がこのゲームを生き抜くには何か足りない。信長が勝手に敷いたルールを自然視しているし、それ自体を検討しないことを忠義と呼ぶ間抜けぶりだし、当然メタメッセージは一切読み取れない。信長の視点から見ると、どっちがどうなんですかね。どっちも信用できないけど、信用できなさの質が違いますよね。

 光秀もおもしろかったのですが、黒田官兵衛が最初から最後まで「うんざり」という気持ちを隠さずにいながら、さっくり作戦を練ってさっくり遂行するのや、日本時代劇史上最も本人に似ているのではないかと思わせる徳川家康などもよかったです。

 おもしろいお話でした。

 しかし、今年最後の映画が「首」になるのも切ない気がしたので、もう一本、『サムシング・イン・ザ・ダート』を見ました。

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男がひとり、部屋で目覚める。引っ越してきたばかりのアパートは水漏れしている。中庭を見ると住人らしき男がいる。シャツに血がついている。だがそれは血ではなく、血を模したカクテルなのだという。ゴスの集まりで写真を撮っていたから、と。偶然、バーテンダーをしていた男も夕べ、ゴスの集まりに遭遇していた。今日引っ越してきたばかりの彼はリーヴァイと名乗った。血のついたシャツの男の名前はジョン。ジョンとリーヴァイは、リーヴァイの部屋に放置されていた透明な結晶のかたまりようなものを灰皿代わりに煙草を吸い、「よろしく」と挨拶しあった。のちに、この結晶のかたまりがみずから灰を振り払い、空中に浮かぶところを二人は目撃する。

 というお話で、二人はこの不思議な体験を映像に収めて、YouTube かなんかに上げてお金を儲けようと盛り上がります。その映像を撮影しつつ、編集しつつ、そこに関係者のコメントが入りつつ、行ったり来たりしながら映画は進みます。

 基本的にはジョンとリーヴァイの会話が軸となって進む……というか、二人で話してるだけなのです。不思議なことは起こる。でも予告に比べると、超常現象的なものに出くわしたのときの二人の反応が地味で、それがリアルでした。リーヴァイの部屋で透明ななにかがふわふわ〜と光を放ちながら浮かび上がったとき、二人は無言でしずしずとジョンの部屋に撤退し、リーヴァイはとりあえず酒を飲む。このときに「うあーーー!!」と叫んだり、大騒ぎしたりしない。とりあえず二人でなにか、延々しゃべってる。二人の人間が延々しゃべって、あらぬ方向に行ってしまうだけなんだけど、なんかそれがおもしろい。映画館で私の両脇にかけておられた方々は二人とも熟睡しちゃってましたけど、熟睡するのもまた、この映像が想定している体験の一つのスタイル、という感じで、スクリーンと客席がつりあってました。

 全然違う映画を二本見てバスに乗ろうとしたら、20 分待ちだったので面白半分に富士そばでおそば食べて帰ってきました。

公園の木にボールが三つ

これらが回収されることはあるのでしょうか

 近所の小学生とバスでいっしょになったら、その子達が降りるとき、ちゃんと振り返って忘れ物がないかチェックしていたので、私も同じようにしました。

 今夜は鰤を焼いて食べます。

🎦 おしまい 🎥