プール雨

幽霊について

伊勢物語 第九段(駿河なる〜都鳥)

 今朝は部屋の時計兼温度計が湿度を「Lo%」と表現していました。そんな表現あるんだ、この時計、と思いつつ、白湯を飲みました。

レモンを入れました

 川上弘美訳の『伊勢物語』、冒頭だけ読んだのですが、かなり切れがよくて、さすがのかっこよさ。「はやく、あっちを読みたい」という気持ちが高まっています。私はいつ読み終えるのでしょう。岩波文庫(定家本)は百二十五段。一週間に平均五段として、二十五週くらいか。「光る君へ」完結よりは先に読み終えたいものです。

一〜五段 六段 七、八、九(かきつばたまで)段

 (二)

 旅を続けて一行は駿河の国に到着した。宇津の山にたどりついて、自分が入ろうとする道は、たいそう暗く細くて、蔦や楓が茂り、なんとも心細く、とんでもない目に遭うものだと思っていると、修行者に会った。

 「こんな道に、どうしていらっしゃるのですか」と言うのでそちらを見ると、男が会ったことのある人だった。男は「京に、あの方のおもとへ」と言って手紙を書いて言付けた。

   駿河なる(駿河にある

   宇津の山べの(宇津の山の辺りにいて、

   うつつにも(現実でも人に会わないし、

   夢にも人に(夢でもあなたに

   会はぬなりけり(会わないのでした

 「とんでもない目に遭うものだ」は「すずろなるめを見ること」。「すずろ」は「そぞろ」で、「そぞろ」が優勢になるのは中世になってからのようです。意識や自覚と無関係にことが運ぶときの不快さや意外な気持ちを表します。「身をえうなき物に思ひなして」京をあとにしたものの、まさかこんな目に遭うとはなあと心細くなるような道を行く男でした。

 「駿河なる……」の歌は「新古今集」に収められています。出典はこの「伊勢物語」。それ以前の勅撰、私撰の和歌集になく、『古今六帖』の「音に聞くうつの山辺のうつつにも夢にも見ぬに人の恋しき」や「忠岑集」の「駿河なる宇津の山のうつつにも夢にも君を見でややみなん」に拠った創作と見られています。これら二首の歌と同様に、「駿河なる宇津の山べの」部分は「うつつ」を出すための序詞で、中心は「うつつにも夢にも人に会はぬなりけり」部分。「こんな寂しいところまで来て、全然人に会わない」ということと「夢にあなたが出てきてくれない」ということがすーっと重なるというか、スライドするこの感じがどうにもこうにも訳せなかったです。

(三)

 富士山を見ると、五月の末に雪がとても白くつもっている。

   時知らぬ(時を知らぬ山

   山は富士の嶺(富士の峰よ

   いつとてか(今をいつと思って

   鹿の子まだらに(鹿の子まだらに

   雪の降るらむ(雪が降っているのか

 その山は、都にたとえると比叡の山を二十ばかり重ね上げたくらいの高さで、形は塩尻のようであったよ。

 塩尻は塩を精製する作業の最初の方で、海辺に砂の山をつくってそこに海水を注いでは乾かすという工程があって、その砂の山のことです。

 「時知らぬ……」は「業平集」にもあって、業平作と見てよいようです。

(四)

 さらに旅を続けると、武蔵の国と下総の国との間に、とても大きな川があった。その川を隅田川という。その川のほとりで集まって座り、都に思いを馳せ、なんとはるばる遠くに来てしまったものだなと互いに心細さを嘆き合った。すると渡し守が「はやく船に乗れよ。日が暮れてしまう」と言うので、乗って川を渡ろうとするのだが、一行は皆、なんとも寂しくて、それぞれ都に思う相手がいないわけではない。このような折に、白い鳥で、嘴と脚が赤く、鴫くらいの大きさの鳥が、水の上で遊びながら魚を食べている。都では見ない鳥なので、一行は誰も知らない。渡し守に聞くと「これこそが都鳥だよ」と言うので、それを聞いて、

   名にし負はば(そのような名をもっているなら、

   いざこととはむ(さあ、尋ねよう

   都鳥(都鳥よ

   わが思ふ人は(私の思う人は

   ありやなしやと(都で息災にしているか

と詠んだものだから、船に乗っている人はみな、泣いてしまったのだった。

 東京住まいなので、「土地勘のあるところに来た」という感じがします。京都を出発して、ずいぶん遠くまで来ました。「限りなく遠くも来にけるかな」は「なんとはるばる遠くに来てしまったものだな」と訳しましたが、だいぶマイルドな表現になってしまいました。これ以上ないくらい遠くまで、ついに、来てしまった……! という感じが出せませんでした。

 歌は「古今集」にも収められている、業平の有名な歌。川幅の大きな隅田川を渡ろうとするといよいよ京のことが思い出され、それぞれに都に残してきた人のことが気になる。そんな折も折、都では見られない鳥を見る。名前は都鳥だという。そんな名ならば尋ねよう、あの人は無事か? と歌ったらみんな泣いちゃった。疲労もたまっているので泣いた方がいいと思います。

 初冠して、高貴な女性に恋をしてかなわず、そして色々あって武蔵国までやってきました。さて、この後どうなるのでしょう。

 とかなんとか言って、この東下りのラインがなかなか終わらないのであった。来週、脱出をめざします。

ぬくぬく

 昨日、久々に塩麹と醤油麹を仕込んで、うっすらと「健康に気を付けよう」という方向に舵を切っています。なにせ 12 月 30 日から 1 月 6 日まで一日も休まず飲酒した影響がまだ身体に残っていますので。

 では、この件はまた来週。

日をいっぱい浴びる山茶花

🚶 おしまい 🚶