伊勢物語
六十四 昔、相手が(手紙をかわすばかりで)二人きりで会って情けをかわすこともなかったので、男が「どこの人だったのだろう」と、よくわからなくてこう詠んだ。 吹く風にわが身をなさば玉簾ひま求めつつ入(い)るべきものを (吹く風にこの身を変えられる…
だんだん山茶花と椿の区別がこころもとなくなってきました。今年、こちらでは山茶花が咲くの、遅かったのもあって。 山茶花 たぶん、山茶花 山茶花だと思う 山茶花なんじゃないかな…… 六十三 昔のこと。 女が、ああ、恋がしたいと思うようになった。 どうに…
六十二 昔のこと。 長年、男が通わずにいた女が、男のことがわからなかったのだろう、他人のつまらない言葉をうのみにして、地方の人に使われる境遇になった。そして、以前会っていたその男の前に出てきて、給仕をしなければならないめぐりあわせになった。 …
まだまだ咲かない山茶花 六十一 昔、男が筑紫に出向いたとき、「そこにいる人は色好みの、好き者」と簾の内側にいる人が言ったのを聞いて、こう詠みかけた。 染河をわたらむ人のいかでかは色になるてふことのなからん (もし、染河を人が渡ったら、 どうして…
六十 昔、男がいた。 宮仕えが忙しく、ともに家をとりしきっている女性に対して、誠実とはいえない状態が続いていた。その状況下、「自分なら誠実に愛するよ」という人がいて、彼女はその人について他国へ行ってしまった。 男が、豊前国宇佐宮へ朝廷の勅使と…
五十九 むかしのこと。 男は都のことをどう思ったのだろうか、東山(ひむがしやま)に住もうと思い入(い)って、 住みわびぬ今はかぎりと山里に身をかくすべき宿求めてん (暮らしていけない もうこれでおしまいだ 山里に身を隠せるすみかを探したい と詠ん…
五十八 昔のことです。 人を想うことを知った色好みの男*1が、長岡という所に屋敷をもって暮らしていました。そこの隣に住んでいた宮様方にいる、好ましい感じの女たちが、田舎のことであったので、田で稲を刈ろうというときに、そこに男がいるのを見て、「…
歌一首のみの章段が続くので、一気に、手短に行きます。 五十一 昔、男が人の前栽に菊を植えたときに 植ゑし植ゑば秋なき時や咲かざらん花こそ散らめ根さへ枯れめや (しっかり植えましたから、秋のない時は咲かないでしょうけど、 秋には咲くでしょう そし…
五十 昔のことです。 男がいました。 恨み言を言ってきた人を恨んで、 鳥の子を十ずつ十は重ぬとも思はぬ人をおもふものかは (卵を十ずつ十重ねることはできたとしても 自分を愛してくれない人を愛することはできない と言ったところ、 朝露は消えのこりて…
四十八 昔、男がいた。馬の餞(旅立ちの祝い)をしようとして人を待っていたところ、相手が来なかったので、こう詠んだ。 今ぞ知るくるしき物と人待たむ里をば離(か)れずとふべかりけり (今知りましたよ 人を待つのは苦しいものですね 自分を待っている人…
四十七 昔のこと。男に、なんとかして思いを叶えたいと大切に思う女がいた。しかし女の方ではこの男が浮気者だと聞いて、次第につれなさが増していった。そんなときに、女が詠んだ歌。 大幣(おほぬさ)の引く手あまたになりぬれば思へどえこそ頼まざりけれ …
四十六 昔のこと。 男に、とても親しい友人がいた。少しの間も離れず互いに大事にしていたが、その人が地方に行ってしまうことになり、男はしみじみと悲しく思いながら別れたのだった。 月日を経てその人が送ってよこした文に、「お会いできないまま、あきれ…
かわいい人たちのお部屋を夏仕様にしました 四十五 昔のこと。 男がいた。 ある人がいて、その人が大切に育てている娘がいて、娘はこの男にどうにかして気持ちを告げたいと思っていた。 その気持ちを表に出すのが困難であったせいだろうか、娘は原因不明の病…
むしゃくしゃして買った モミジのプロペラ 暑すぎて…… いろんなものがてりてりしています 四十二 昔のこと。 男は、その女を色好みと知りながら、交際していた。浮気者だと知ってはいたが、それで憎らしいということはなかった。しばしば女のところに通いな…
四十一 昔、同母の二人姉妹がいた。 一人は身分が低くて貧しい男を、もう一人は高貴な男を夫としていた。 身分の低い男を夫としている方が、師走の晦に、夫の袍を自分で洗い張りしていた*1。注意してしわを伸ばしていたのだが、生家ではそのような仕事は下女…
四十 昔のこと。 若い男が、感じのいい下女に恋をした。この男には子どもの先回りをしてしまう親がいて、今は淡い思いかもしれない息子の思いが強くなったら困ると気を回して、女をよそへやってしまおうとした。そうは言っても、まだ追いやらずにいたときの…
三十九 昔のこと。 人びとが「西院の帝」と申し上げた帝がいらっしゃいました。その帝の皇女に崇子(たかいこ)という方がおられました。その崇子様がお亡くなりになり、御葬送の夜、おすまいだった宮の隣に住んでいた男が、お旅立ちを見ようとして、女車に…
三十三 昔のこと。 男に、摂津の国は菟原(うばら)の郡に通っていた女がいて、その女が「彼が今、京に行ったら、ここには二度と戻ってこないだろう」と思っているような様子だったので、男はこう言った。 葦辺より(葦が生い茂っている岸の辺りから 満ちく…
二十七 昔のこと。 男が女のもとに一夜だけ通い、それきり行かなくなってしまった。朝になり、女が、手を洗う所にかけてあった貫簀(ぬきす)をよそへどけてみたら、たらいの水に自身の影が見えたので、女みずから 我ばかり(私ほど 物思ふ人は(思い悩んで…
二十六 昔のこと。 男が、五条の辺りにいた女と人生をともにすることができないとはっきりして、それを辛いと思っていたところに人から手紙が来た。男は返事にこう詠んだ。 思ほえず(思いがけず 袖にみなとの(袖に港ができたかのような さわぐかな(さわぎ…
ちかごろうちのまわりで咲いている花。 木瓜 山茱萸 ネモフィラ! 二十五 むかしのことだ。男がいた。会うとも会わないともはっきりとは言ってくれない女がいて、さすがにそういうことをする女だけあって、男はどうしても惹かれてしまう。それでその女にこう…
図書館の前の椿……じゃなくてこれは山茶花か ららら。 図書館からのお便りを待っているの。 暇つぶしに「伊勢物語」でも読んじゃおうかしら。 二十四 むかしのことだ。 男が片田舎に住んでいた。この男が宮仕えをするためと言って、女との別れを名残惜しく思…
『光る君へ』の舟から下りてはや十日。日常をとりもどしつつあります。やはり、日曜の夜に連続ドラマを見ると生活のサイクルが乱れます。主人公と主人公の親が理不尽な目に遭った翌朝、ふつうの顔をして働くなんてできません。大河ドラマは今後、金曜か土曜…
ぼんやり 今朝の月 二十二 昔のことです。 頼りなくて別れてしまった二人がいて、それでも忘れられなかったのでしょうか、女のもとから 憂きながら(しんどいと思いながら 人をばえしも(あなたのことを 忘れねば(どうしても忘れられなくて かつ恨みつつ(…
「光る君へ」は七回を最後に、大海原へと旅立ちました。私は港にひとり。今は「ああ、すっごく不思議な光景を見た」という気持ちです。ただ夢の心地なむしける。 「伊勢物語」の方は引き続き読んでいきます。 二十一 昔のこと。 ある男女がいました。二人は…
二十 昔のことだ。 男が大和に住んでいる女を見て、言い寄り関係をもった。 しばらくして、男は宮仕えをする人であったので、大和に留まっているわけにもいかず、京に帰ってくることになった。そのとき、三月ごろだったのだが、楓の葉で紅色がとても風情ある…
「源氏物語」はどこを読んでも気が重くなるので読みたくないとか言っていたら罰が当たり、どうしても読まなければならない状況に追い込まれたのが先月のことにございます。つろうございました。「いやだっつってんでしょ」と虚空に向かって叫びましたがたれ…
悪霊退散! 昨日はスーパーに行きましたら太巻きがたくさん売られていて、私も「ハーフ」なるものを買い求め、食しました。そしたらば、「太巻き欲」に火がつきまして、まだまだ食べたい。今日は食べなかったので、明日は食べたい。そんなことを思う立春です…
今週の「光る君へ」は体感 20 分でした。びっくりしてたら終わったよ。なかでも藤原道隆が言った、われわれは大きな秘密を抱えたのでこれでまた家族の結束が強まりましたナ……的な文言の意味がわからなかった。共犯関係を結束と言い換えることはままあるけれ…
一〜五 六(芥川) 七〜九(かきつばた) 九(宇津の山べの、時知らぬ山、都鳥) 東下りの続き。男、武蔵の国にて。 十 むかしのことだ。ある男が武蔵の国までふらふらと歩いて行った。そこで、その国に住んでいた女に言い寄った。女の父親は別の男と結婚さ…