プール雨

幽霊について

ヒゲ問題 2024

もう食べられない菜の花

 ヒゲっていえば『アストリッドとラファエル』です。

 あの『アストリッドとラファエル』です。

 あてずっぽう推理でぐいぐい行くラファエルが犯罪資料局文書係のアストリッドと出会い、友情を育み手に手を取って、多少違法なことをまじえつつ難事件を解決していくあの『アストリッドとラファエル』です。

 NHK でシーズン 4 をやっていたので、毎週楽しみに見ていました。

 初回は『科捜研の女』風味で戸惑いました。

 『科捜研の女』は好きです。眠れない夜に榊マリコを思い出すとおねむになるの。

 『アストリッドとラファエル』シーズン 4 はいきなり演出の方向性を変えて私たちの前に登場しました。「おやっ」と思いました。「このシーズンは、ミステリ部分はこのように、ざっくりした感じで行くので?」と心配しました。

 それが二話目には元通り。4シーズンの第一話だけ、演出が変な回として歴史に名を残しました。

 このドラマ、ラファエルの兄問題、父問題、元彼問題といった重めの話題が出てきてはふわっと消えていきまして、その度に表面に浮かび上がっていたのがニコラ問題だったのです。ラファエルと同僚のニコラ。試験を受けるときから一緒で、助け合って働いてきたニコラです。ニコラは初期、ヒゲがありませんでした。私はヒゲなしニコラで一度インプットしてしまったため、シーズンが変わってヒゲぼうぼうのニコラが登場したときは誰だかわかりませんでした。「だれこの人。なんらかの技術者?」とか思ってました。その後ニコラはいったんヒゲを剃ります。剃ってくれて「ニコラ帰ってきた」とほっとしたのもつかの間、ラファエルが「なんでそっちゃったの? よかったのに」と発言してしまったため、ヒゲ・イズ・バック。ヒゲにラファエルのファザコン問題という意味をもたせようとした瞬間もありました。そのモチーフはふわっと消えました。

 『アストリッドとラファエル』はアストリッドとラファエルの友情がモチーフで、二人が主人公なのは間違いないのですが、第 1、2 シーズンではニコラの存在感が強すぎ、「世が世ならこっちが主人公だったのでは」という雰囲気が生じていました。特に警部補のアルトゥーロがいたときは二人とも優秀にして率直で、アストリッドとラファエルのコンビとはまた違う、主人公らしさがありました。

 第 3 シーズンはこの、ニコラとアルトゥーロのコンビのパワーをそぐためにあるかのようなシーズンでした。アルトゥーロはぐっと後景に下がり、なぞの絆創膏を顔にはっつけたまま理不尽な理由で退場。あのシーズンは今振り返ってみると、どうも「ニコラとラファエルは友だち」路線を貫こうとして失敗した……そんな雰囲気を感じます。

 第 4 シーズンではそのような小手先のああだこうだはあきらめ、ラファエルは髪型を変えますます魅力的に、ニコラのヒゲはぐっと濃く、警視正との対比が明らかで、絵面がわかりやすくなりました。

 日頃「ひとさまの恋愛なんかどうだっていいんだが」という野蛮な態度でものごとに臨んでいる私ですら「いいかげんにしてくれ。このふたりがどういう経緯でどうなろうとどうだっていいが、もうこんなの、つきあわないと不自然でしょ。いつのまにかつきあってたってことでいいから、おねがい!」とじりじりしました。エマもノラもいい迷惑です。

 ここまでああだこうだ言ってきましたが、それでも私はこのドラマを楽しく見ているし、これからもそうでしょう。どうしてそんなことが可能なのか。それはアストリッドとラファエルが好きだからです。私は今、大変新鮮な経験をしています。平素私は、どれだけすてきな歌手が歌っていようと、曲が好みでなければ購入したり聞いたりしませんし、どれだけ好きな俳優が出ていようと、それだけでは映画もドラマも見ません。でも、アストリッドとラファエルが出てきて、二人が穏やかなやりとりを重ね、助け合っているところさえ見られたら演出が『科捜研の女』風味になろうと、オカルト趣味が行き過ぎだろうと、ニコラのヒゲがどうなろうと見ていられます。もちろん「は!?」とか言いますけれども。一応サスペンスドラマなので。

 あ、いちおう、アストリッドのお話としては直線的に進んでいます。アストリッドはひとつひとつ問題を解決してどんどん外へ出ています。ラファエルはぐるぐる光速でまわっています。

 それではここで一曲お聞き下さい。LAGHEADS と KIRINJI で「どうして髭を?」。はりきって、どうぞ!

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📺 第 5 シーズンまでさようなら 💗